望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

バンダナとマスク争奪戦

 かつて米ハリウッドでは西部劇が量産された。その西部劇で銀行や平穏に暮らす住人を襲う悪漢は、鼻と口をバンダナで隠す扮装で銃を構えるのが定番のスタイルだった。正義の主人公は、顔を隠すことはしない(映画では人気役者が正義の主人公を演じるので、顔を隠す演出は御法度)。

 バンダナとは大型のハンカチで、頭を覆ったり首に巻いたりするファッション小道具でもある(女性が使うスカーフと似ている)。そのバンダナで顔の下半分を隠すスタイルが米国で復活したという。CDC(米疾病予防管理センター)が、外出時に医療用ではない布製マスクの着用を推奨し、バンダナやスカーフなどで口を覆うことも認めた。

 これまでも感染者にはマスク着用を促していたが、非感染者はマスク着用の必要はないとしていた。だが、感染者が増えた地域などに無症状の感染者が多数存在し、他人にうつして感染を拡大することが懸念され、外出時には幼児以外の誰もが鼻と口を覆うようにと変更した(布製マスクとしたのは、サージカルマスクなどを医療機関用に確保するため)。

 感染が世界的に拡大し、日本全国でも感染者が急増しているのだから、無症状の感染者はおそらく膨大な人数になり、そこここに存在して、無症状の誰もが(あなたも私も)感染者である可能性がある。感染拡大の抑制には人々のさらなる協力が必要となり、外出時のマスク着用はマナーから防疫対策に格上げされた。

 だが日本ではマスクは店頭から姿を消したままで、争奪戦が続き、ネットなどでは価格が高騰しているという。マスクの需要が高まったのは着用者が大幅に増えたからで、外出する人々の大半がマスクをするようになり、白色が多いものの手作りなのか様々な色彩も増えた。一方で、バンダナやスカーフで鼻と口を覆っている人を日本で見かけることは少ない。

 マスクを着用する目的は飛沫感染を防ぐことだ(ウイルス侵入を防ぐことができる医療用マスクは医療機関でも不足しているので、一般人が使うべきではない)。飛沫感染を防ぐためには、鼻と口を覆う何かを着用すればいい。それで着用者が感染者であっても周囲の人が感染者であっても、飛沫感染を抑制することができるので、マスクに限定する必要はない。

 目的と手段を混同している好例がマスク争奪戦だ。マスクを着用する目的を理解しているなら、マスクを懸命に探し回るよりは、まだ入手しやすいバンダナやスカーフなどで外出時には鼻と口を隠せば飛沫感染抑止という目的を果たすことができる。マスク争奪戦に懸命になる人々と、マスク争奪戦をネタとして報じるだけのマスコミは、マスク着用の目的を理解していないか失念している。