望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

データに現れた人口減少

 2015年の国勢調査によると、日本の人口は1億2711万人だ(世界10位)。5年前の調査と比べて94万7305人減っており、5年ごとの国勢調査結果で人口が減少したのは初めてとあって、懸念されていた人口減少社会の到来がデータとしても現れたと報じられた。人口減少局面という“恐れていた事態”が現実として突きつけられた格好だが、悲壮感いっぱいに大騒ぎすることはなかった。

 日本の人口が減るとの予測は以前から広まっていたから、それがデータとして現れても驚きは少なかっただろうし、人口減少社会により引き起こされる様々な課題は直接的に目に見えにくいものだろう。だが、様々な課題への対応が進んでいるとも見えないので、いずれ影響は徐々に及んで来る。

 ちなみに国勢調査によると日本の人口は、1920年5596万人、1930年6445万人、1940年7193万人(ほかに内地外の軍人、軍属等の推計数118万人)、1950年8411万人、1960年9430万人、1970年1億466万人、1980年1億1706万人、1990年1億2361万人、2000年1億2692万人、2010年1億2805万人。ずっと人口は増え続けていたが、初めて今回調査で人口増減率がマイナスになった。

 日本は人口が1億人未満の時代が長かったのだから、人口が減っても“昔”のように生きればいいさと過剰に悲観的になる必要はない。だが、人口減少とともに高齢者の割合が増えて人口構成は変わったので、“昔”と同じ社会環境ではない。低成長の社会で、年金や社会保障などの費用が増加するが、財政には余裕はない。

 経済成長率は「1人当たり労働生産性増減率」と「人口増加率」の合計からなるが、人口減少は価値観の変遷によるものなので、経済成長は1人当たり労働生産性の向上に期待するしかない。だが、技術革新に過大な期待はできないので、未来の経済成長は人口増加率だけでほぼ説明できるという(『資本主義の終焉、その先の世界』水野和夫&榊原英資)。

 労働生産性を飛躍的に向上させる技術革新はそう簡単にもたらされるものではなく、非正規雇用が増えている若年層の婚姻を奨励したとしても出生率の大幅な向上は望み難く、また、単身者でも生きやすい社会になったとあっては、人口増加は簡単なことではない。

 人口減社会が現実になった日本は、物質的に豊かで、インフラが整備され、環境汚染が抑止された社会を構築している。成熟した社会なのだから日本は、高齢者が余生を楽しむ感覚で悠々と暮らしていける社会であれば理想的だが、一方で格差が現存し、拡大しているので、誰もが悠々として生きることができるわけではない。「撤退戦」は難しい。