望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

国家による経済活動

 人々の外出禁止や店舗の営業禁止などで経済活動がほとんど停止した各国は、資金繰りに窮する企業や生活不安に怯える人々を救おうと、相次いで大規模な財政出動による経済対策を発表している。日本も事業規模108兆円の緊急経済対策を決定した。

 2008年のリーマン・ショックでは米金融機関の破綻から世界的な経済危機となったが、今回は各国で小売りや飲食業など実体経済の川下から危機的状況が広がり、家計へも影響が急速に及ぶ可能性が高い。今回の各国の経済対策は、金融機関を救うことや景気対策は後回しで、企業や家計を支援することが最優先だ。家計への現金給付も各国で現実化している。

 今回は金融経済ではなく実体経済に大きなダメージが急速に広がっているのだから、企業や家計の存続に経済対策の重点が置かれるのは当然だ。店舗や中小企業がバタバタとつぶれ、失業した人々が溢れたなら、金融システムの健全性が当面は保たれたとしても、そんな社会に意味はない。社会は崩壊していくだろう。

 実体経済が川下から機能停止すると、大企業も危うくなる。ほとんど運航を停止したので各国の航空会社の経営不安は現実化し、生産停止が長引き、販売が回復しないなら各国の自動車会社や家電会社なども経営難までに長くはかからないだろう。自動車会社などの経営が揺らぐと、その波及する影響は大きい。需要が大幅に抑制された市場経済は持続困難な経済である。

 需要の“蒸発”は、市場経済の終焉だ。感染拡大が終わるか、免疫を持つ人が多数になって新型コロナウイルス感染が他のインフルエンザと同様の疾病に落ち着いたなら、経済活動が再開して急速に世界で経済は持ち直すだろうが、先行きの見通しは誰にもわからない。明確なのは、現在は市場経済が機能しなくなっていることだ。

 民間による経済活動が機能しなくなり、収入が絶たれたとしても人々は生きている。民間による経済が機能しないなら、人々の生存や生活を支えるためには国家による経済活動しか残っていない。国家による経済は民間経済とは異なる原理で動く。利潤や効率などではなく、人々の生存や生活を維持することが目的。不況時には公共事業で需要を創出し、今回のように民間経済が停止したなら、国家経済が企業と家計を支えなければならなくなる。

 国家による経済活動を中心にすることは共産主義の国では日常だが、資本主義の国では非常事態だ。さらに、国家による大規模な経済活動で市場経済が再起動したとしても、巨額の財政支出で巨額の財政赤字が後に残され、紙幣の大量流通によりインフレとなる懸念がある。インフレとなって金利が上がれば巨額の財政赤字がさらに重くのしかかる。

 現在を戦時体制にたとえる各国の首脳が多く、非常事態であるから国家による経済活動しか人々が生き延びる方策はないだろう。だが、世界で感染拡大が終焉し、人々が日常へと復帰し、民間による経済活動が活性化したとしても各国の経済は大きなダメージを引きずる。