望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

米国の惨状

 日本では、居住する全員が国民健康保険など何らかの公的な医療保険に加入する国民皆保険制度が実現している。加入している日本人らはどこででも医療機関で診察や治療を受け、会計で保険証を提示すれば自己負担は医療費の一部だけで済む。

 日本が採用している国民皆保険制度は社会保険モデルで、ドイツやフランスなども導入している。「国民の多くが医療保険に加入し、その保険料を医療費の財源」とし、「医療機関は開業が自由で、国民による医療機関の選択も自由なのが一般的」だ(厚労省サイト)。

 英国や北欧諸国などが採用しているのは国営医療モデル。税金で国が国民など居住者に無料で医療を提供する。人々は近隣の診療所に登録して診断や治療を受け、診療所の医師が必要と判断した場合にのみ大規模な病院で受診できる。病院は全て国営。ただ英国では予算カットで病院の設備の充実などが遅れ、人件費カットで医師が減り、病院での受診は時には数カ月も待たされるという。

 米国は、民間保険が主の市場モデル。公的な医療制度は、高齢者と障害者と生活保護受給者を対象とするものはあるが、多くの人々は、企業が保険料を負担する民間保険か自己負担で民間保険に加入する。無保険者は人口の1割、数千万人いるとされ、問題視されている。民間病院が中心で、医療費は高額。一般の初診料は150~300ドル、入院すると室料は1日あたり数千ドル、上腕骨骨折で入院手術(入院は1日)は1万5千ドルなどという。

 そんな米国で新型コロナウイルス感染が拡大し、感染者数は世界最多となった。3月に成立した法により新型コロナウイルスの検査は無償となったが、検査で感染が判明し、症状が悪化して入院して治療した場合、高額な治療費がかかる(実際の例として、無事に退院できた人への請求額は3万4000ドルを超え、保険に入っていた人でも保険外分として2万ドル請求されたことが報じられた)。

 高額な治療費を恐れて症状があっても病院を訪れない人が多いと危惧されているが、米国の医療制度から除外されている不法移民が数百万人いて、失業保険の申請数が1千万件を超すなど企業の健康保険から出された人々が激増し、市場競争・自由競争に委ねた米国の医療制度が社会的に脆弱であることが浮き彫りになっている。

 おそらく症状があっても病院に行かない、または、行けない人が多いであろう米国。米国で感染者や死者が急激に大幅に増加したのは、すでに感染が広がっていたのが可視化されただけかもしれない。人々の健康や生命さえも市場の自由競争に任せ、感染症に圧倒されている米国の現状は惨状としか言いようがない。