望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

誰に投票するか

 どこかの政党の党員やシンパであるなら、選挙で投票する時に迷うことはない。迷うとすれば、日頃から支持している政党が候補者を立てず、推薦する候補者もいない選挙のときぐらいで、投票する候補者を自分で決めなければならない。だが、どこの政党の党員でもなくシンパでもない多くの人は、選挙のたびに、投票する候補者を捜して迷う。

 なぜ迷うのか。それは、政策を検討して、支持する政党を決め、その政党の候補者に投票するのが選挙における投票だと思い込んでいるからだ。ところが、政策を検討するために、例えば選挙公報を読んでみたって、程度の差はあれ誰でも強いて反対しないような抽象的な文言を並べている政党が多いから、判断の決め手にはならない。さらに、選挙のたびに新しい政党がいくつか加わっているから、ますます判断に迷う。

 選挙で投票することは主権者の最も重要な権利行使だから、棄権はしたくないと考える無党派の人は、自民か反自民かと基本的態度を決め、ほかの政党は頼りないからと自民に投票したり、自民は嫌だからと野党の中から投票先を選挙のたびに決めたりするのだろう。

 反自民の人の中には、どうせ野党は国会では政府批判に終始するだけで、政策に影響を与えることができず、野党のどれに投票しても政治には変化はないだろうからと、その時々のフィーリングで投票先を選ぶ人もいるかもしれない。ただ、そうした投票行動では現実の政治の方向性は変わらないから、反自民の人はいつまでも反自民で居続けるしかない。

 選挙では、支持する政党を選ぶ必要はないという考え方がある。投票する基準は、それまでの政治に不満があれば野党第1党に投票し、不満がなければ与党に投票する。そのときの野党第1党や与党がどこかなんて気にせず、政権を交代させるか否かで判断するのだ。それまでの政治に不満があっても、野党の中で票が分散すれば政権交代にはつながらないから、そのときの野党第1党に投票を集中しなければならない。

 選挙は、どこかの政党への支持を表明するのではなく、それまでの政権に対する評価を示すとすれば、投票のたびに迷うことはなくなる。政党なんてどれも怪しい人間の集まりで信用できないと考えている人や、政党なんか支持したくないが棄権はしたくないという人なら、政権交代を判断の基準にするのが便利だろう。

 選挙前の世論調査では必ず、支持政党を訪ねる設問があり、支持する政党を決めることが選挙には必須であるかのような雰囲気づくりがなされる。だが、政党を支持しなければならない義理は多くの人にはないだろう。国政を担う政党を主権者が選択するのが選挙であり、政党は主権者に使われる存在である。だから“使えない”政党を淘汰するチャンスが選挙である。