望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

借りた土地で借りた時間で借りた金で生きる

 英国の植民地だった香港に住むことは、「借りた場所で、借りた時間で」の生活と表現されたことがある。1839年からのアヘン戦争のあとに香港島は英国に永久割譲され、第2次アヘン戦争のあとに九龍半島も割譲され、新界は1898年から99年間の期限で英国が租借した。香港では土地の所有権は住人には与えられず、使用権のみが売買された。

 中国本土では土地は国有ということで、現在でも土地の所有権は個人には与えられず、使用権が売買されている。だが実際には地方政府が、住人を追い出した土地を業者に売って再開発させたりすることで売却益を確保したりしているので、個人の使用権は限定的だ。中国の人々は「借りた場所」で生活しているが、「借りた時間」であるかどうかは今は不明だ。

 「借りた時間」とは、いつか期限が来るということ。土地の私有を認めない1党独裁体制が終わったときに、次の政権では政策が変わるだろう。借りたものは、いつか返さなければならない……というのが世の中の決まりなのだろうが、踏み倒す人もいたりする。土地や時間なら、体制が変わり政権が代われば人々に「返される」のだろうが、大企業などが借りた金は、体制が変われば騒ぎにまぎれてウヤムヤになるかもしれない。

 中国の借金総額は2015年末時点で168兆元(約2650兆円)でGDPの249%に達し、企業分が156%を占めるという。中国では主要な産業を大企業である国有企業が牛耳っているが、その国有企業が抱える負債が全企業の負債の3分の2を占めている。国有企業の負債が膨らむのは、これも国有である銀行が貸し続けるからだ。国有の銀行が貸し付ける資金とは公的な資金である。


 巨額の負債ではあるが、中国が公表する統計数値は政治的な配慮を加えて修正されたものであろうから、実際の負債はもっと多いだろう。中国では国有企業や地方政府の債務が膨らんでいると見られているが、実態は闇の中。例えば、IMFは中国の債務総額はGDP比で225%とし、米マッキンゼー国際研究所は同282%とするが、「正解」は誰も知らない。

 すでにデフォルトが少しずつ増えているともされるが、続々と国有企業を破綻させることは中国では政治的な責任問題にもつながるので、大規模な破綻処理は不可能だろう。政治的な影響が大きすぎて、つぶせない国有企業に銀行は資金を流し続けるしかない。つまり、負債額は増え続け、中国経済を蝕み続ける。

 いつか中国で1党独裁体制が崩壊したなら、国有企業は相次いで行き詰まるだろうが、膨大な借金は騒ぎにまぎれて踏み倒されるだろう。国有企業だけではなく地方政府も民間企業も個人も、「借りた金で」生き延びていた連中の大半も負債を返すことはできないだろう。現在の中国の繁栄は、踏み倒すことを暗黙の前提とした資金の垂れ流しで支えられている。