望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

分断して統治する

 英国は植民地において、少数民族を支配者側に登用し、多数民族を被支配者とすることで反感を少数民族に向けさせたり、宗教を利用して対立を煽ったり、社会に存在する差別を利用して被差別者を優遇することで多数派の反感を被差別者に向けさせたり等々、植民地の人々を分断させて統治したとされる。

 植民地を支配している英国人に反感を向けさせないようにするため、植民地の人々の中に存在する様々な対立を煽って先鋭化させた。植民地の人々は、社会にあった認識しやすい対立に問題意識を誘導されて分断され、植民地支配を終わらせて独立を目指すという大きな動きに結集することは遅れた。

 分断して統治するという手法は植民地にだけ存在するわけではない。古くは古代ローマ帝国が拡大した領土の中で、支配した部族・民族を対立・離反させて分断し、敵意を互いに向けさせ、ローマ帝国には向けさせないようにして支配を容易にしたと伝えられる。

 現代でも、国内に存在する様々な対立(政治的な主張や経済的利害、地域的利害、宗教、民族などに基づく対立)を権力の握る人々が利用して、対立・分断を生じさせる光景を各国で見かける。人々が分裂して対立している状況は、権力を握る人々への批判を鈍らせる効果を持つ。分断して統治する手法は現代国家においても有効だ(マスメディアは分断をネタにし、分断を嘆いて見せる)。

 先進国の国内においても人々を分断させ、対立させる要因は数多く存在する。中産階級が解体されて非正規雇用が増大し、所得格差が大幅に拡大する中で政治的主張や経済的な利害、地域的利害、宗教、民族などによる人々の細分化が促され、互いに批判・攻撃し合う。自己主張を強める人々が他者への攻撃を強めると、権力に対する共闘の機運は薄れる。

 そんな分断策の一つに世代を対立させることがある。日本でも、高齢者層と若年層の対立構図がメディアで説かれ、年金制度などを取り上げて若年層が不利益を被っていると煽られる。そこでは若年層の不利益が強調されて、社会制度が高齢者層に有利に構築されているなどと若年層の不満は高齢者層に向けられるよう仕向けられる。

 世代間の負担と受益のバランスは、その対象範囲の設定次第でどんな構図でも描くことができる。例えば、現代の整備されたインフラや社会制度などは高齢者世代の負担により構築されたもので、その恩恵を若年層は大きく受けているのだが、そんな全体を見た検証は世代間の対立を煽る議論では無視され、若年層の不公平感だけが強調されたりする。

 世代間の協調を促進して各世代が一緒に社会の課題の解決を目指すのではなく、世代間の対立を煽って分断することで利益を得ているのは誰か。分断を強調して国内で人々を対立させ、人々を連帯させないようにするのは統治の基本なのだろう。権力を担う人々は、分裂を嘆いてみせたとしても、人々が分断され対立する状況を実は歓迎しているように見える。